和田誠のグラフィックデザインについて

5月9日(月)から、銀座にあるギンザグラフィックギャラリーで企画展「和田誠のグラフィックデザイン」が開かれる。和田誠さんといえば「週刊文春」の表紙やポートレートなどイラストレーターとしての仕事が有名だが、ぼくにとっては、柳原良平、横尾忠則、山名文夫ほかと並ぶ、黎明期の広告業界を舞台に活躍したグラフィック・デザイナーとしての印象が強い。広告も雑誌もその他の分野もいちばん活気があった1960年代、いまのようにグラフィック・デザインとイラストレーションが分業化されていなかった頃に、自分で絵を描いてデザインもし、さらにはアニメーション制作や執筆、編集、作曲など、興味のおもむくままにいろんなことに次々と積極的にトライしていった。そのフットワークの軽さにあこがれてしまう。

おそらく誰もが知っている和田さんのグラフィック・デザイナーとしての代表作は、たばこの「ハイライト」のパッケージだろう。発売以来一度もリニューアルされることなく愛され続けたシンプルなデザイン。和田さんの仕事でぼくが個人的に最も好きなのは、草森紳一によるナチス研究本『ナチス・プロパガンダ絶対の宣伝』シリーズの装幀。全体に赤と黒で統一された色調。赤一色のベタにナチスのシンボルを中央に置いただけの外箱。シンプルを極め、デザイン的にはほとんど何もしないことによって、本の内容と意味性が静かに強く伝わってくる。

今回の企画展の紹介ページで著書『時間旅行』から引用されていた、「デザインはあくまでも人のためにあって、限りなく縁の下の力持ちだから、自己主張しないものだと思っている。」という和田さんのデザインについての考え方は、ぼくの「器としてのデザイン」の発想に近い。自己主張から離れてそこにあるものにひたすら寄り添うことによって、その作品の最終到達点におのずと導かれる、みたいなことは確かにある。ただそれは簡単なようでいて、とても難しいことだと思う。匿名であるためには何よりも基礎的なスキルが必要だし、和田さんもその地点にたどり着くまでにはきっと星の数ほどの(それこそ自分の仕事の回顧を“時間旅行”と呼んでしまえるくらいの)経験を必要としたことだろう。和田さんと同じ地点に自分もたどり着けるとは到底思えないけれど、いまはとにかく“経験”がもっともっとほしいところ。

追記(5月19日):観に行ってきた。

何十年もの間に生まれたグラフィック・デザインの作品が、ジャンルごとに整然と並べられていた。名画座やシアターアプルの古いポスター、ロゴデザイン、新聞広告、数々の装幀・装画などなど……。中でも感銘を受けたのは、1977年から毎週手がけている「週刊文春」表紙の装画とデザイン。自分にはない新しい画風にトライしようとスタートして、それさえも描き続けて29年、という経験の重みがすごい。ポスターは、和田さん独特のほのぼのとした絵の世界と、カッチリしたデザインの世界に、彼なりの線引きがみえて興味深かった。ロゴデザインにも思わず見入ってしまった。CDジャケットにも使われたデュークエイセス45周年のロゴが好き。

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