大人の、大人による、大人のための音楽

チラシや新聞広告の仕事に関わったのがきっかけで聴いた五輪真弓さんの最新アルバム『Welcome』があまりに良かったので、クライアントにお願いして、開催中のコンサートツアー“2007 Welcome home”を観させてもらうことができた。

五輪さんといえば、ぼくがまだ中学生だった頃のヒット曲「恋人よ」が懐かしい。失礼ながら五輪さんに関するぼくの記憶もそこで止まったままだったが、今回聴いた『Welcome』は、オリジナル・アルバムとしては11年10カ月振りというブランクを感じさせないみずみずしさにあふれていた。林立夫さんや井上鑑さんをゲストに迎えた極上のセルフ・カヴァーと新曲、美空ひばり「愛燦燦」やルイ・アームストロング「What a wonderful world」のカヴァーなど。深みとハリのある声はどことなくUAに似ていて、若い音楽ファンにも十分アピールしそうだ。SACD録音であることも自宅のステレオ的にはポイントが高い。とにかくここ数日、家では五輪さんの歌声がヘビー・ローテーション状態だった。

会場の東京国際フォーラムホールCは、団塊世代からその上ぐらいの世代の人々であふれていた。若い音楽ファンはほとんど皆無に近かった。おそらく若い頃に彼女のことを知った同年代のファンが多いのだろう。音楽のマーケットが既に、若年層だけではなく、様々な世代や用途向けに細分化されていることを実感した。ひとつの音楽を世代を超えて多くの人々の耳に届けることは、いまの音楽状況においてはきわめて困難なことに違いない。ロックでもアイドル・ポップスでも演歌でもどんなジャンルでも、目の前に小さく広がる世界が、それぞれのリスナーにとって音楽をめぐる風景のすべてとみなされるような状況(いわゆるタコツボ化状況)の中では、網羅的/ボーダレスに音楽を届けていくことも、逆に聴くことも難しい。できることはといえばこの日の五輪さんのように、自分の信じる音楽を目の前にいる人々に向けて、丁寧に地道に伝えていくしかない。ほんとうにステキな歌声だった!

昔は中高年世代の音楽といえば演歌や民謡だったが、いまではずいぶん様変わりしたように思える。ぼく自身もそちらの世代に差し掛かりつつあるからわかるが、たとえば今年に入ってからの桑田佳祐の2枚のシングルは、妙に心にしみる大人の味わいがあって何度も繰り返し聴いた。過去に関わった人々では、最近のヒートウェイヴ山口洋さんの作品や、ドラマー林立夫さんのコンピレーション『Non Vintage』もそんな文脈にありそうだ。大人が聴くための音楽を、手を抜かずに心を込めて創りそしてきちんと届ける仕事は、これからますます増えていくに違いない。そんな仕事があれば積極的に関わっていきたいと思う。

 
写真=五輪真弓『Welcome』[Hybrid SACD]

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