展覧会日和[2008・5月]

5月×日
川内倫子写真展『Semear』を観に、馬喰町のFOIL GALLERYへ。3回の旅を経て撮影されたブラジルのいろんな風景・人・物……。川内さんとブラジル、というのが意外な取り合わせで、興味をひかれた。同名の写真集がどことなく全体に沈んでいるようだったのに比べ、この日見たプリントはどれも美しく新鮮で、独特のクールさを持つ倫子ワールドと、ブラジルの移民街やカーニバルの群衆や派手な色の果物などから溢れ出るエグいパワーが心地よく拮抗していた。

メトロで六本木へ。突然雨が降り出し、今年のGWはゴールデンならぬグレーウィークである。初めて行く国立新美術館の、地下に設けられたスーベニアショップの一角にあるSFTギャラリーで、ミナペルホネンの『TODAY’S ARCHIVES』を観る。ミナの服や布地はいつ見ても綺麗だが、やっぱり美しく設えられた店舗で出会うのがふさわしいと思った。美術館の土産物とともに並べられたピンバッジやノートやTシャツ等が、単なる普通の「グッズ」に成り下がっていて可哀想だったから。

雨宿りも兼ねて近くの東京ミッドタウンが見たくなり、ビル内のデザインハブというギャラリーに入ったら、たくさんのグラフィック・デザイナーをはじめとするクリエイターによる『1 ー Design For The Next ー』というタイトルの企画展をやっていた。数字の「1」の形の立体を使って、各参加者が自由に表現している。モニタを埋め込んで映像を流す人もいれば、1の立体そのものを強力な磁石で空中に浮揚させる人もあり、一つ一つがオンリーワンで、見ていて飽きなかった。中にひとり、この展示自体が生んだ廃材(種類と量がメモされている)をつぎはぎにして1の立体を再構成した作家がいて、そこには「この企画展のために作られた展示物もすべて、終了後直ちに廃棄される運命にある」みたいなコメントも書かれていた。正直、皮肉だなあ、ネガティブだなと思ってしまった(ごめんなさい)。デザインは、物や素材をただのゴミに終わらせないためのポジティブな営為であってほしい、とぼくは思う。青山ブックセンターで中島英樹さんの作品集『文字とデザイン』を買って帰りの電車で読んだら、元気が出てきた。

5月×日
最近デザインに関わっている男性4人組コーラスグループのライブ本番の日。撮影開始前のわずかな時間を利用して、ギャラリー360°(表参道)のホンマタカシ写真展『東京』に立ち寄る。行ってみてわかったのだが、外国の出版社から発売されたばかりの写真集『TOKYO』は、かつて光琳社出版から出ていて、版元倒産と同時に絶版になった『東京郊外』のリイシュー/再編集版だった。大貫卓也氏による絵本のような合紙造本が素晴らしかったあの本、10年近く前、本屋にたくさん平積みになっていた頃に買っておくんだったよな、と今更ながら少し後悔。

5月×日
COWBOOKS南青山で本日から始まる『カウブックスのリトルプレスフェア』へ。DJ Codomo君の『MY MUSICAL SCORE』とFRAMeWORK『murmur magazine』、yasuminaさんの力の抜けた力作『reminiscent smile』を購入。ついでにHPギャラリーを覗くと、たまたま開かれていた国分チエミさんの『forest』という展示。イラストの枠を少し超えたグラフィカルな発想が随所に感じられて、目に心地よかった。

5月×日
新宿・コニカミノルタプラザでの写真展『生命のパスポート〜人々をつなぐ母子健康手帳〜』。母子健康手帳はもともと日本独自に発展したものだったが、研修で訪れたインドネシアの医師が母国に広めたのに始まり、いまではさまざまな国に普及しつつあるという。とくに、緊急医療が求められるパレスチナでは「生命のパスポート」として欠かせない役割を果たしているとのこと。写真のほかにも、各国版の母子手帳が自由に見られるようになっていた。子どもをやさしく抱きしめる母の姿は世界共通の平和のしるしで、本当に子は人類の宝だと心から感じた。『デザインの現場』6月号の特集〈「世界」を救うためにデザインができること。〉を見ても思ったが、自己表現とか自己満足に関わらず、カッコ良くなくても、道具として人々の役に立てる仕事ができたら幸せだ。
 
eames
 
大江戸線で六本木へ。初めて行くAXIS Galleryの、チャールズ・イームズ写真展『100 images × 100 words─偉大なるデザイナーのメッセージ』。入口で、イームズオフィス制作の本『チャールズ・イームズの100の名言』を入場料1000円と引き替えに受け取る。その中でいくつか心に響いたものを列挙しておこう。

21.「苦労は決して見えないものだ」──その通り。完成した仕事の奥深くに込められている。
26.「現実には、人はその道の先輩から影響を受けていることを認めないわけにはいかない」
 ──内田樹氏が『下流志向』という本の中で似たようなことを言っていた。
29.「自らの体験から学ぶことほど重要なことはない」──まったく、おっしゃる通りです。
53.「デザイナーは、ゲストのニーズを予測し、きめ細かい心配りのできるホストのような役割を果たすべきだ」──デザイナーって、芸術家というよりサービス業だと思う。
59.「家でも映画でも椅子でもみな、しっかりとした構造が必要だ」
 ──その構造を発見し応用するのが、デザイナーの仕事。
74.「ディズニーランドに行きなさい」──はい、行きま〜す(まだ行ったことがない)。
82.「妥協を強制されたことはないが、制約は喜んで受け入れてきた」──イームズらしい一言。
99.「予測でなく、私の率直な希望を言おう。これからのデザインでは、デザイナーの顔が見えなくなるといい」──見えなくなるほど、多種多様な仕事がしてみたい。

展示はイームズの100点の写真パネルを階段状に左右に配置し、裏側に100の名言を印刷した、とても奇抜でよくできた構成になっていた。映像作品の「SX-70」(ポラロイドの仕組みと撮影方法を解説したもの)からもイームズの写真愛が伝わってきた。どの写真もパースペクティブを強く意識したものになっていて、さすが立体の作家ならでは、と思った。

5月×日
経堂のROBA ROBA Cafeでsmile market sunui『バッチとピン』を見る。ベトナムからの買付品と小物たち。次のにじ画廊の展示ではバッグとか大きい作品も見てみたい。

5月×日
新橋のクリエイションギャラリーG8とガーディアン・ガーデンで同時開催の十文字美信展『写真に落ちていく』。80年代の巨匠と思ってあまり期待しないで観たら、写真とともに展示されたエッセイからの引用文が面白すぎて凄すぎて、度肝を抜かれた。幼少期からいまに至るまでのインタビューを収録した小冊子がめちゃくちゃ面白かった。高校生の頃インテリア・デザイナーを目指して、アポ無しで剣持勇の自宅に押しかけた話や、親友の話、初めての撮影のエピソード、病気になったときのことなど……元気をたくさんもらった。ガーディアン・ガーデンでは仏像の3D写真の展示。家に一冊絶版になった「ポケットに仏像を」シリーズがある。

5月×日
雨の中、渋谷から徒歩で、代官山ヒルサイドフォーラム『エミリー・ウングワレーを超えて-オーストラリア・アボリジニアートの世界』へ。エミリー・ウングワレーはオーストラリアのアボリジニ・アーティストで、国立新美術館でも大々的な個展が開かれている。こちらは、彼女に続くアボリジニ・アートの作品を集めた企画展。点描のような抽象画は、人体に描く装飾としてのボディー・ペインティングが転じたものらしい。以前、大竹伸朗の「全景」展で観た“網膜”のシリーズのように、これも目を閉じたときに映る網膜の様子をそのまま絵にしているようにみえた。母親の胎内にいるような、人間の原初に立ち返らされる素朴で圧倒的な表現に、その場で倒れそうになってしまうほど感動した。いくつかの作品に「私のふるさと」と名前がつけられていて、抽象的で想像力を巡らせて見るしかないような絵なのに、不思議と心の奥を揺さぶられるような懐かしさを感じた。

続いて、近くのSPEAK FORで開かれている、オーレ・エクセル展『デザインって何?』へ。オーレ・エクセルは、ポール・ランドとも親交のあるスウェーデンの有名なグラフィック・デザイナー/イラストレーター。ぼくが最も尊敬するデザイナーのひとり(たくさんいるけど)。先ほどの展示とはうってかわって、可愛さと美しさを兼ね備えたプロダクトやスケッチの数々に心が和んだ。今回の展示のために作られたオリジナルグッズのグラスセットを購入。
 
>>展覧会日和[2008・4月]

 
――2010秋以降の展覧会ツイートを、こちらのハッシュタグ #gbiyori に残しています。

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