2008年最も印象に残った××××

:::本:::

雨宮処凜の「オールニートニッポン」
雨宮処凜(祥伝社新書)

昨年の前半に、ニートや引きこもりの若者たちを支援するNPOからの依頼で、ロゴタイプやリーフレットを作る仕事をした(→協同ネット|Works)。そのとき、彼らが支援の対象とする若者たちについて書かれた本をいろいろと読んだ。当時ニートや非正規雇用、ワーキングプアの問題は多くの人が論じているほどにはピンと来なかったが、それからたった半年で、雇用をめぐる状況は論客たちの言うように大きく変貌し、「蟹工船」が現実のものとなった。

「デモ」や「運動」というものがいまだにどうしても好きになれないのだが(佐々木敦さんの意見に同意)、雨宮処凜の行動にはなぜか強く共感できる。この本は彼女がパーソナリティを務めたネットラジオの内容をまとめたもので、赤木智弘や松本哉(素人の乱)、湯浅誠(派遣村でおなじみ)ほか、ワープア問題の第一人者が勢揃いしていて、とてもわかりやすい。ここを出発点にそれぞれの著書をたどっていくのもいいだろう。

 
他にも…
「若者を見殺しにする国」は、「希望は戦争」のキーワードが衝撃だった一冊。「ボク達のハローワーク~萌え職業案内所~」は、ニート関連の本の中では毛色が変わっていて面白かった。“やりたいコト”って一体なんだろう…。「GROOVISIONS MGR」はグルーヴィジョンズ目黒時代を総括する作品集。「いるべき場所」は、純粋な目と好奇心をつねに絶やさず、音楽やカルチャーの突端にくっつき居合わせ続けた男の自伝。本の結末でつきあい始めた彼女との間には、のちに女児が生まれることになる。

若者を見殺しにする国 赤木智弘(双風舎)
ボク達のハローワーク~萌え職業案内所~ (ビデオ出版)
GROOVISIONS MGR (パルコ出版)
いるべき場所 ECD(メディア総合研究所)
 
 
 
:::雑誌:::

nina’s(ニナーズ)
(祥伝社)
BRUTUS(ブルータス) 特集 YouTube
(マガジンハウス)

雑誌の危機がさかんに叫ばれ、いくつもの老舗雑誌が休刊、または休刊を宣言した2008年。ここでも何回か取り上げさせてもらった「広告批評」もまもなく終了。かくいう自分も雑誌をほとんど買わなくなった。これだけネットが発達したいま、人々は「日刊PC」「日刊ケータイ」といった名前のメディアをすでに定期購読しているようなもの。RSSリーダーやソーシャルブックマーク、まとめサイト、ニュースサイト、ポータルサイトが新しい雑誌単位ということになる。それらに載っているのと同様の内容を、わざわざお金を出して新たに買おうとは思わないだろう。逆にいえば、そこに載っていない特別な情報や企画を備えた雑誌であれば、お金を出してでも買ってみたい。「nina’s」は、今年唯一毎回購読したリアルの雑誌。ファッションと子育てを上手く組み合わせて、子育てママパパの楽しくもヘヴィな日常に、ささやかな希望や夢を与えてくれる。デザインもいい。ウェブサイトのイラストがせきなつこさんというのもお洒落。「BRUTUS」の特集“YouTube”は、本来インターネットで供給されるタイプの情報を、雑誌の特性を巧みに生かしてまとめた好企画。

 
他にも…
雑誌ではないが、よく足を運んだブックストア「SHIBUYA PUBLISHING BOOKSELLERS」のディスプレイやお店の在り方自体が、非常に雑誌的だった(「ROCKS」という雑誌も自社で発行している)。今後は「雑誌ではないが、雑誌的」な何かが、雑誌以外のフィールドに徐々に出現してくるはず。そのことに期待したい。

SHIBUYA PUBLISHING BOOKSELLERS (東京・渋谷)

  
  
:::アート:::

せきなつこ『Retro Perspective』
(表参道=ROCKET)

「展覧会日和」を始めるようになってから、「行くかもしれない展覧会」で紹介するだけにとどまらず、責任上、自分でちゃんと観に行く習慣が生まれた。いろいろ出会った中でやはり衝撃的だったのは、せきなつこさんの、既存の枠組を超えたおしゃれで新しいコラージュ。《古い雑誌や紙を使ったコラージュということだが、そこに広がっていたのは横尾忠則や伊藤桂司などの先達とはまた違った、一言で言って“引きの美学”ともいうべき全く新しい風景だった(当時書いた記事より)》。いま最も作品集が観てみたい、できることなら原画を手に入れたい作家。アートの面白さの前には不況もどこ吹く風。今年も昨年以上にたくさんの新しい作品に出会いたい。

 
他にも…
『仮面ブドーのレース』は誰もが使う三色ボールペンで、あんなにオリジナルな世界が切り開けることに驚いた。『写真に落ちていく』は写真もさることながら、十文字さんの言葉=半生の面白さにひかれた。『エミリー・ウングワレーを超えて』はアートの持つプリミティブなエナジーにあふれていた。『祈りの痕跡。』展は浅葉さんのキュレーション/展示構成がとても勉強になった。『because there is light』の嶋本さんとはこの展覧会をきっかけに、一緒に仕事をすることになった。

多田玲子個展『仮面ブドーのレース』 (吉祥寺=Artcenter Ongoing)
十文字美信展『写真に落ちていく』 (新橋=クリエイションギャラリーG8/ガーディアン・ガーデン)
エミリー・ウングワレーを超えて-オーストラリア・アボリジニアートの世界 (代官山=ヒルサイドフォーラム)
嶋本麻利沙写真展 because there is light (表参道=Idea Frames)

 
:::キーワード:::

“育てる”

10月までは時間があっという間に過ぎていった。娘が生まれた11月以降は一日一日がいとおしくて、時間がなかなか前に進まない。いっそこのまま止まってしまえばいいのに、と思う。これまで自分以外の誰かをこんなふうにいとしく思ったことはなかった。「育てる」なんて、とてもおこがましい言い方だ。この小さくてつぶらな瞳の子と我を忘れて一緒に遊んで遊ばれて、こっちも親として人として育てられていく。できるだけ長く一緒にいられるように、体になるべくいいものを食べ、健康に気をつけ、この子が少しでも安心して生きられる平和な世界を願う。……こんな親バカをどうか許して。

 
※音楽が空気や家具のような存在になったので、今回は音楽の項目を省略します。2008年は久々に多くの音楽に触れました。中でも興味深く聴いたのは、Perfume『GAME』YELLE『Pop-Up』
 

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