展覧会日和[2009・11〜12月]

11月×日
新橋のクリエイションギャラリーG8/ガーディアン・ガーデンで、原耕一アートディレクション展「もうちょっとだな」が同時開催されていた。原さんという名字のアートディレクターが何人もいるので混乱しがちだが、原耕一さんはYMOの『BGM』期の雑誌広告、サザンやINU(町田町蔵)のレコードジャケット、サントリーやJTの広告などを手がけた人。会場にも閲覧可能な形で展示されていたサントリーのPR誌『SPIRIT.』からも、80年代特有のむせかえるようないい匂いがぷんぷん漂ってくる。で、すっかり80年代の人だと信じ込んでいたのだがとんでもない、21世紀以降現在もなお、広告など様々な分野で第一線で活躍中なのであった。特に90年代の写真ブーム以降の写真集の仕事では、80年代とはまた違った形で時代を牽引している印象すらあった。過去に関わったたくさんの写真集(これも閲覧可)に起用された写真家の人選が非常に的確で(森山大道、石内都、ホンマタカシ、若木信吾、新しい人では石川直樹、鷹野隆大ほか)、彼と仕事をした写真家は必ず大物になる、みたいなセンサーの役目を果たしているようにも感じられた。第二会場のガーディアンガーデンには、日本専売公社〜JTのたばこ広告やPARCO、YMO、シナロケなどの過去の広告仕事がずらりと。今回も充実しているタイムトンネルシリーズの対談本を買って帰った。

ギンザ・グラフィック・ギャラリーまで歩いて、北川一成展へ。住み慣れた印刷の世界から離れて、ビジュアル表現の高みを目指そうとする姿勢はわかるのだが、彼のタイポグラフィだけはどうしても馴染むことができない。

11月×日
北村範史さんの展示第三弾(FRAMeWORKの球根展も含めると4回目)「窓」を観に、水道橋の食堂アンチヘブリンガンへ。内装もさりげなく置かれた小物もすべてが洒落ている店内で、飾られた写真や絵の作品が文字通り「窓」のように機能している。別の場所で打ち合わせがあるのでランチを食べてすぐに出ようと思ったら、北村さんが現れたので少し話すことができた。

11月×日
1歳の誕生日を境に娘のボキャブラリーが徐々に増えてきて楽しい日々。恵比寿のMA2ギャラリーで、楽しみにしていた藤井保「BIRD SONG」を観る。原研哉、深澤直人との無印良品の仕事などで有名な写真家。渡り鳥の撮影をライフワークにしているのだそうだ。美しい群れの隊形を写し止めた写真と、鳥の羽ばたきを残像のようにとらえた写真、どちらも藤井さん独特の重みのあるモノクロで見ごたえがあった。グルビ×コーネリアスの「WATARIDORI」を思い出す。優雅でタフで、とても切ない。

11月×日
めったに行かない新中野にある女子美ガレリアニケというギャラリーへ、NNNNY(伊藤ガビンとグラフィックデザイナーいすたえこのユニット)による『NNNNYのデザイン家電の予習復習』を観に行く。以前、結局来日できなかった思想家のフェリックス・ガタリのイベントで、点字+ステンシルの上からスプレーを吹いて作成したフライヤーが彼らの作品だった。今回の展示はそれとはまったく無関係の、デザイン家電の忘れられたプロトタイプともいうべき「家具調コタツ」がテーマ。現在のデザイン家電の方向性(引き算)と家具調コタツのそれ(足し算)は真逆を向いている、ということに気付かせてくれただけでも面白かったというべきか。

11月×日
乃木坂21_21 DESIGN SIGHTの、「THE OUTLINE 見えていない輪郭」展へ。先日も観た藤井保さんが深澤直人のプロダクトを撮る、というよだれの出そうな展示。藤井さんの写真における対象の切り取り方、深澤さんの徹底的な引き算の末に切り出されたプロダクト、どちらからも学べることがたくさんあった。レタリングで影だけを描いて書体を表すアプローチが、今回の「輪郭」の考え方に似ていると思った。

11月×日
藤井→藤井/深澤、と来て、今度は深澤さん単独の展示へ。とはいっても個展ではなく、表参道EYE OF GYREで、深澤直人が主宰するデザインワークショップ「WITHOUT THOUGHT」発表展のVOL.10「箱|BOX」が開かれていた。参加デザイナーが提案するパッケージ(商品/モノを包む箱)が実際に作られ、展示されている。ワンアイデアで笑わせる方向の作品が多い中、關真由美さんという人の「1カットのショートケーキの箱」(ショートケーキ一箱分の箱の内側が鏡になっていて、開くとホールケーキのように見える)が、アイデアと見た目の双方で優れていた。図録を購入。その後、HBギャラリーの網中いづる個展「Once upon a time」のオープニングに向かうも、パーティーの混雑で中にも入れず、あきらめて夜から始まる打ち合わせの場所へと向かった。

11月×日
忙しさのピークをようやく乗り越え、次の仕事の準備などに少し時間をかけてじっくりと取り組む日々。日本橋の産業技術史資料情報センターという聞き慣れない場所で「ザ・テレビゲーム展 〜その発展を支えたイノベーション〜」(PDF)という興味深い展示が行われていると聞き、早速行くことに。北九州で開かれる「ザ・テレビゲーム展」のプレ展示ということで(そちらも行きたかった…)、狭い会場に、初期のテレビゲームの原型となるオシロスコープを使った機器や、日本からは任天堂のファミコン〜ゲームキューブ、それに対抗するSEGAのマスターシステム〜メガドライブ(←両方持ってた)からNECのPCエンジンまで、レアなゲーム機がずらりと並んでいた。中でも衝撃を受けたのは世界初の商用家庭用ゲーム機「ODYSSEY」。この古いCM映像を見るとわかるように、ODYSSEYは白黒テレビの上に、カラー印刷された透明フィルムをゲームごとに貼り替えてプレイする。それぞれのフィルムがとても可愛いし、家庭用白黒テレビの表現の拙さをカバーするアイデアとしても秀逸。こんな珍しいゲーム機に出会えただけでも幸せだった。

そのまま少し歩いて、京橋Bartok Galleryの「現代女流絵本作家展」という厳めしい名前のグループ展へ。気になっていた画家さんの絵をまとめて見ることができた。展示作家のひとりであり友人の、市居みかさんは数日前ブログで第一子の妊娠を発表。とても嬉しい。不在だったがお祝いのメッセージを残して会場をあとにした。

 

12月×日
新宿2丁目。初めて行くPhotographers’ Galleryで野村佐紀子写真展「野村佐紀子展 1」。展示の内容よりも、このギャラリーへ向かうまでの周辺のゲイタウンぶりにたじろぐ(真っ昼間だからまだ良かったが…)。展示自体がこの街の一部であるかのようにすら感じたほどだった。暗闇と、男の裸と。

気を取り直して、表参道HBギャラリーの「和田誠・挿絵原画 大公開」へ。昔の挿絵原画と、復刻されたモノクロの童話(おさる日記)が何種類か売られていた。迷って結局買わずに出てしまった。

12月×日
原宿のLAPNET SHIPでMurgraphの個展「3 chords」を観る。Murgraphこと下平晃道くんの、同時期に開かれる個展のひとつで、こちらはイラストレーションサイドの作品が並ぶ。新作はタイトルの通り3色で描いたドローイングで、奥さんでパートナーの多田玲子(Kiiiiiii)が描く3色ボールペンのドローイングに影響されているようでもある。もちろんアウトプットの仕方はそれぞれ異なるけど、本当にこの夫妻は双子のようだ。きれいな多色刷りのZINEと、Tシャツを買って帰る(翌日、同じ展示を妻と娘と三人で観た)。

12月×日
黒沢健一のアルバム『Focus』でご一緒した嶋本麻利沙さんの新作展「yellow turning gold」を、No.12 GALLERY(東北沢)で。前回の写真展「because there is light」を観て、すぐにアルバムの撮影を依頼したのがちょうど一年前のことだった。緑の木々がやがて紅葉して黄金色に変わるように(『Focus』リミテッド・エディションがお手元にある方は、ブックレットのライブ編直前の写真を参照)……まさに“yellow turning gold”のように時は過ぎ、嶋本さんの写真も黄色く深く色づいていた。というのはもちろんぼくの主観に過ぎないが、もしあの時出会っていたのが今回の写真だったら……と思うとますます運命を感じずにはいられない。

12月×日
久々に銀座へ。長い行列とテレビの取材。きょうがアバクロ銀座店のオープン日らしい。行列にも渋滞にも興味ないので足早に素通りして、ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催中の「広告批評展 ひとつの時代の終わりと始まり」へ向かう。展示のディレクションがグルーヴィジョンズ。昔から広告批評は事あるごとに購入してきて大好きな雑誌だったが(とくに中村至男、グルビのAD時代)、この展示はまさしく「ひとつの時代の終わり」以外の何物でもなかった。1F中央に設置された白い箱の中に、トイレの落書きのような寄せ書きコーナーがあって、それが新しい広告批評の「始まり」に相当するらしかった。新サイトのURLと、その周りにマジックペンで書かれた広告業界人、編集者、あるいは広告業界を目指す学生たち?の、いまだに広告の未来を信じて疑わなそうな(とぼくには感じられた)書き込みの数々。2ちゃんやSNSの向こうを張っているようでいて、実は思い切り閉じているその小部屋にこそ、広告と広告批評のひとつの時代の終わりを見た気がした。会期がもしも半年後の(twitterとUstreamがある)現在だったら、切り口が全然違っていたかも、とも思う。広告批評の本当の「始まり」に期待している。

会場を後にし、新橋のクリエイションギャラリーG8とガーディアン・ガーデンで開かれている「手ぬぐいTOKYO」へ。200人のクリエイターによる手ぬぐいの展示即売。以前ぼくも、複数のクリエイターによる…という触れ込みのTシャツ競売に参加したことがあるが、この手の企画では売れる商品と売れない商品の差が如実に表れて、ある意味非常に酷だといえる(自分のは売れなかった方)。この企画展に限らず、売れる作品とそうでない作品の違いをはっきり見極めることは、プロダクト制作において非常に参考になると思う。ネームバリューがあれば売れるというわけではなく、かといってクオリティが大事かと思えばそれだけでもない。

12月×日
もうすぐ終わりそうなヴェルナー・パントン展を観に、初台の東京オペラシティアートギャラリーへ。徹底的にモダンで未来的で、ラグジュアリー(←パントンのパターンをジャケットに使ったFPMのアルバムのタイトル)を追求したプロダクトの数々。最近観てきた質実剛健、シンプル・イズ・ベストのプロダクトとは対極の世界。パントンのインタビュー映像を観ながら、3Dカーペットの「ウェーブ」に寝転んでそのままうとうとしてしまった。

12月×日

hamano
 
年の瀬。今年はありがたいことにたくさんの仕事に恵まれた。しかも締めくくりを、ずっとデザインに関わっているスムルースのアルバム撮影のための大阪出張で飾ることができた。前回(1月)と違って遊びにいく時間はほとんど取れなかったけど、大阪の中心部から少し離れた岸和田で同じ時期に開かれている、はまのゆかさんの「Thank you!! 原画展 〜デビュー10周年記念〜」だけはどうしても観ておきたかった。はまのさんは「13歳のハローワーク」の挿絵で有名なイラストレーターで、スムルースのヴォーカル徳田君の大学の後輩にあたることを前々から聞いていた。

なんばから特急サザンに乗って岸和田へ。古き良き情緒が残る街並みを歩くこと約15分。会場の自泉会館は、古い様式の建築がそのまま残されている、地域の大きな公民館みたいなところ。その一室にはまのさんの10年分の作品が並べられている。手作り感あふれる展示が彼女の絵にはよく似合っているように感じられた。本人に会えなくても、と思い、ノートに感想とスムルースの撮影で東京から来た旨を残して帰ろうとしたら、それを見たはまのさんご本人が声をかけてくれて、スムルースのことや絵のことについて短い時間話すことができた。こんな小さなことでもいつか何か、自分自身や自分のまわりでつながることがあればいいなと願いつつ、いつも展覧会に直接足を運んでいる。
 
>>展覧会日和[2009・9~10月]

 
――2010秋以降の展覧会ツイートを、こちらのハッシュタグ #gbiyori に残しています。

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