生活クラブのリニューアルプロジェクト

前回のエントリの完全版として、生活クラブのリニューアルプロジェクト(2015〜)に関わることになった経緯や、具体的な仕事の内容について、アートディレクター〜デザイナー個人の視点から記しています。
(個々の仕事については、後日Worksにも公開します。)

 

生活クラブって、なに?

生活クラブは、全国に多数ある「生活協同組合」という名前で呼ばれる組織のひとつです。食材の宅配や店頭販売、保険や保育、自然エネルギー発電など多岐にわたって活動しています。加入した組合員同士で食料品や生活必需品をまとめ買いし、みんなで安く分け合うしくみが50年前に世田谷区の主婦たちによってつくられ、そこから徐々に活動の輪が全国へと広がっていきました。
 
生活クラブのあゆみ

>>生活クラブについて|生活クラブ

誰かが作ったものをただ何も考えずに買うのではなく、組合員みずから商品企画や品質管理にまで徹底したこだわりを持ち、生産者と一緒になって品物(生活クラブでは「消費材」という独自の名前で呼ばれている)を作り、それを自分たちで買う(良い品物を作ってもらうために先払いも行う)……という連鎖(自給圏)を長きにわたってキープし続けてきました。そのこだわりの半端なさゆえか、生活クラブの食べ物は安心・安全の追求はもとより、他の生協とは比べものにならないほど美味しさが際立っています。
 
こだわりの消費材

>>こだわりの消費材|生活クラブ

ぼくの友人・知人たちにも、生活クラブの魅力にひかれて組合員になった人々が前から多数いましたが、実はこの仕事に関わるまで生活クラブのことはあまりよく知りませんでした。しかし、いまでは組合員のひとりとして、消費材の美味しさや質の良さを味わいながら、日々いろんなことを考えています。
 

きっかけは、絵本の仕事

生活クラブの仕事に関わることになったきっかけは、全くの偶然でした。2013年に、絵本作家・はまのゆかさんによる絵本『九九をとなえる王子さま』のデザインに関わり、完成後に原宿のカフェSEE MORE GLASSで小さな展覧会と、はまのさんとぼくと、版元のあかね書房の編集者の三人で絵本制作の過程を語るトークイベントが開かれました。そのイベントに、当時生活クラブにプランナーとして携わっていたスピノザの廣江さん(→ITmedia)という方が訪れ、ぼくに声をかけてくれました。生活クラブのリニューアルプロジェクトに先立ってアートディレクター/デザイナーを探していた折、かつての仕事仲間だったはまのさんから届いたイベントの招待メールに、ぼくの名前とプロフィールを見つけたのだそうです。
 
九九をとなえる王子さま

はまのゆか『九九をとなえる王子さま』(あかね書房)

はまのゆかさんから『九九をとなえる王子さま』のデザインを依頼され、そして口下手を押して展覧会のトークイベントに参加していなかったら、声をかけて頂いて生活クラブの仕事に携わることもありませんでした。思い起こせば、はまのさんから絵本の仕事に誘われたのも、ぼくがその前年に友人の家で沢山の絵本と出会って、絵本のデザインがしたいと声を上げたのがきっかけだったのかもしれません。
 
BEAUTIFUL DAYS

スムルース『Beautiful Days』(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)

そもそもはまのさんと出会ったのは、スムルースというバンドのジャケットデザインの仕事でした(スムルースのヴォーカルとはまのさんが、美大の先輩後輩の間柄)。そのバンドのプロデューサー/A&Rは、ぼくが矢野顕子さんの仕事に関わっていた当時、矢野さんのレコード会社の営業担当だった人でした。トークイベントと展覧会が開かれたSEE MORE GLASSの店主も、矢野さんの熱烈なファンで、ツアーグッズで作った絵本の編集デザイナーとしてぼくのことを知っていました。……数々の偶然がバトンリレーのように繋がって、今回の生活クラブのプロジェクトへと至ります。(……しかしこの流れから行くと、いちばんの恩人は矢野顕子さんかもしれないですね 🙂 )
 

具体的に手を動かすこと

今回の生活クラブのリニューアルデザインは、いわゆるブランディング(→Wikipedia)と呼ばれる仕事の一環にあたります。ぼくがアートディレクターとして参加し始めたのは2013年秋頃からでしたが、ほかにも翌年春から加わった広告代理店のスタッフとその関連会社、これまで生活クラブと繋がりのあった印刷・デザイン会社、ウェブ制作会社など、複数の企業や個人がプロジェクトに名を連ねています。
 
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新ロゴタイプの初期プレゼン資料より。テキストもほぼ自作

ブランディングについて、雑誌等でいろんな事例を予備知識として得てはいたものの、著名なアートディレクターや大手広告代理店の専門分野というイメージがあって、自分には縁遠いものだとずっと思い込んでいました。ただ、ひとつラッキーだったのは、生活クラブの現場では、デザインや何かを作ることの背後にある「言葉」が大事にされていることでした。とにかく具体的に手を動かすこと、その先にしか道はないと考え、手始めに改善の余地がありそうな宅配カタログのリニューアルと、新しいロゴタイプの設計から着手していくことになりました。
 
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表示規定や禁止事項などを細かく定めた、新ロゴタイプのガイドラインより

プロジェクトの最初の大きなスタート地点が、今後のビジュアル展開の基盤となるロゴタイプの設計でした。2011年に別のデザイナーにより設計されたシンボルマークを引き継ぎつつ、それと並行して使用する、文字だけのロゴタイプが必要とされていました。シンボルマークに使われていた写植書体「石井太丸ゴシック体」(→書体のはなし|亮月製作所)の細部を整える地道な作業から始まったデザイン案が、部内コンペや組織全体の承認を経て、最終的に新しいロゴタイプとして使われることになりました。文字のパーツを置き換えた4色のドットは、生活クラブの看板ともいえる農産物=一次産品、自然の作物の色からなる「果実」をイメージしています。
 

「否定しない」デザイン

続いて、ロゴタイプに合う標準書体やブランドカラーを定めたガイドラインにもとづき、ウェブサイトや各種カタログ、広告、販促グッズ、パッケージなどが並行して作られていきます。制作物の全てにデザイナーとして関与しているわけではありませんが、それぞれにロゴタイプの設計思想やデザインのエッセンスが受け継がれています。
 
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複数の制作会社の主導で作られた、組合員向け『生活クラブ ガイドブック』より

ロゴタイプのほかにも、2015年春のリニューアルと同時に生活クラブの基幹消費材として新たに立ち上げられた「ビジョンフード」「エルズ選定消費材」のシンボルマーク、新予約システム「よやくらぶ」ロゴタイプ、インターネット注文「eくらぶ」のリニューアルロゴ、新しくなったカタログに使われているタイトルロゴやマーク、組織共通の名刺、印刷物などのデザインに関わっています。
 
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2011年のリニューアルで定められたシンボルマークのテイストやブランドカラー、50年分の生活クラブの歴史を否定せず、良いところはできるだけリユース(再利用)しつつ、全く新しいビジョンを見せていきたい、というのがここまでの仕事で考えてきたことです。子育て世代や若年層などいままで生活クラブにあまり関心を持たなかった人々はもちろんのこと、既存の組合員の方々にも新しいデザインの心地よさや楽しさ、使いやすさを同じように感じてもらえたら、こんなに嬉しいことはありません。

 
>>生活クラブのホームページ

>>2015年4月から生活クラブ生協の注文システムが便利に。ブランドイメージも一新|生活クラブ
(プレスリリース)

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