下山ワタル|ピーグラフ

生活クラブのデザイン まとめ

2014年から約5年間、生活クラブ生協のアートディレクターとして、2015年から使われている新ロゴタイプや各種シンボルマークのデザイン、注文カタログのリニューアルなどを担当しました。ここでは、生活クラブのリブランディングプロジェクトでの仕事を中心に紹介しています。

また、新ロゴタイプのリリース直後と、アートディレクターとしての業務を離れてから記した、2本のテキストを併せて収録しました。
 

 

生活クラブのデザイン:一覧


⎯⎯生活クラブ|Work|P-Graph

生活クラブ 新ロゴタイプ[2015]
新ロゴタイプ使用規程(ガイドライン)
生活クラブ ブランドカラーの再設定
生活クラブ 注文カタログ[2015・#1]表紙/コマ フォーマット
よやくらぶ ロゴタイプ[2015]
インターネット注文 eくらぶ ロゴタイプ[2015]
ビジョンフード[2015]
L’s(エルズ)選定消費材[2015]
生活クラブ 注文カタログ[2016・#2]表紙/コマ フォーマット
アースメイド野菜[2016]
あっぱれ育ち/はればれ育ち/たぐいまれ[2016]

* 生活クラブ 新パッケージ[2015~]フォーマット監修
* 生活クラブ 公式サイト フォーマット監修
* 新ロゴタイプに関連したデザイン監修(初期の広報制作物)
* 生活クラブ 食べるカタログ 表紙監修[2014~2018]
・ ブランディング~デザイン講座 講師としての活動[2015~2017]
etc…


・印は、直接デザインに携わったもの。
*印は専門スタッフによる作業の監修・オブザーバーとして参加したもの。
その他の制作物(広告、印刷物、配送トラック、店舗内装、各種カタログ、ウェブなど)は、それぞれ広告代理店や制作会社のスタッフが担当していますが、基本的なトーンに関しては、新ロゴタイプやブランドカラーのガイドラインや考え方を尊重していただいています。
 


 

生活クラブのリブランディングプロジェクト

(2015/05/23・一部改稿)
 

生活クラブって、なに?

生活クラブは、全国に多数ある「生活協同組合」という名前で呼ばれる組織のひとつです。食材の宅配や店頭販売、保険や保育、自然エネルギー発電など多岐にわたって活動しています。加入した組合員同士で食料品や生活必需品をまとめ買いし、みんなで安く分け合うしくみが50年前に世田谷区の主婦たちによってつくられ、そこから徐々に活動の輪が全国へと広がっていきました。

  
⎯⎯生活クラブについて|生活クラブ

誰かが作ったものをただ何も考えずに買うのではなく、組合員みずから商品企画や品質管理にまで徹底したこだわりを持ち、生産者と一緒になって品物(生活クラブでは「消費材」という独自の名前で呼ばれている)を作り、それを自分たちで買う(良い品物を作ってもらうために先払いも行う)……という連鎖(自給圏)を長きにわたってキープし続けてきました。そのこだわりの半端なさゆえか、生活クラブの食べ物は安心・安全の追求はもとより、他の生協とは比べものにならないほど美味しさが際立っています。
 

 
⎯⎯こだわりの消費材|生活クラブ

友人・知人たちにも、生活クラブの魅力にひかれて組合員になった人々が前から多数いましたが、実はこの仕事に関わるまで生活クラブのことはあまりよく知りませんでした。しかし、いまでは組合員のひとりとして、消費材の美味しさや質の良さを味わいながら、日々いろんなことを考えています。
 

具体的に手を動かすこと

今回の生活クラブのデザインは、いわゆるブランディング(→Wikipedia)と呼ばれる仕事の一環にあたります。アートディレクターとしてプロジェクトに参加したのは2013年秋頃からでしたが、ほかにも翌年春から加わった広告代理店のスタッフとその関連会社、これまで生活クラブと繋がりのあった印刷・デザイン会社、ウェブ制作会社など、複数の企業や個人がプロジェクトに名を連ねています(2010年に行われた第一次ブランディングの大規模改修にあたるため、より正確には「リブランディング」)。
 

新ロゴタイプの初期プレゼン資料より。テキストもほぼ自作

 
ブランディングについて、雑誌等でいろんな事例を予備知識として得てはいたものの、著名なアートディレクターや大手広告代理店の専門分野というイメージがあって、自分には縁遠いものだとずっと思い込んでいました。

ただ、ひとつラッキーだったのは、生活クラブの現場では、デザインや何かを作ることの背後にある「言葉」が大事にされていることでした。とにかく具体的に手を動かすこと、その先にしか道はないと考え、手始めに改善の余地がありそうな宅配カタログのリニューアルと、新しいロゴタイプの設計から着手していくことになりました。
 

表示規定や禁止事項などを細かく定めた、新ロゴタイプのガイドラインより

 
プロジェクトの最初の大きなスタート地点が、今後のビジュアル展開の基盤となるロゴタイプの設計でした。2011年に別のデザイナーにより設計されたシンボルマークを引き継ぎつつ、それと並行して使用する、文字だけのロゴタイプが必要とされていました。

シンボルマークに使われていた写植書体「石井太丸ゴシック体」(→書体のはなし|亮月製作所)の細部を整える地道な作業から始まったぼくのデザイン案が、部内コンペや組織全体の承認を経て、最終的に新しいロゴタイプとして使用されることになりました。文字のパーツを置き換えた4色のドットは、生活クラブの看板ともいえる農産物=一次産品、自然の作物の色からなる「果実」をイメージしています。
 

「否定しない」デザイン

続いて、ロゴタイプに合う標準書体やブランドカラーを定めたガイドラインにもとづき、ウェブサイトや各種カタログ、広告、販促グッズ、パッケージなどが並行して作られていきます。制作物の全てにデザイナーとして関与しているわけではありませんが、それぞれにロゴタイプの設計思想やデザインのエッセンスが受け継がれています。
 

複数の制作会社の協力で作られた、組合員向け『生活クラブ ガイドブック』より

 
ロゴタイプのほかにも、2015年春のリニューアルと同時に生活クラブの基幹消費材として新たに立ち上げられた「ビジョンフード」「エルズ選定消費材」のシンボルマーク、新予約システム「よやくらぶ」ロゴタイプ、インターネット注文「eくらぶ」のリニューアルロゴ、新しくなったカタログに使われているタイトルロゴやマーク、組織共通の名刺、印刷物などのデザインに関わっています。
 

 
2010年の第一次ブランディングで定められた、シンボルマークのテイストやブランドカラー、50年分の生活クラブの歴史を否定せず、良いところはできるだけリユース(再利用)しつつ、全く新しいビジョンを見せていきたい、というのがここまでの仕事で考えてきたことです。

子育て世代や若年層などいままで生活クラブにあまり関心を持たなかった人々はもちろんのこと、既存の組合員の方々にも新しいデザインの心地よさや楽しさ、使いやすさを同じように感じてもらえたら、こんなに嬉しいことはありません。

⎯⎯生活クラブ連合会

⎯⎯2015年4月から生活クラブ生協の注文システムが便利に。ブランドイメージも一新|PR TIMES


 

プロジェクトを振り返って

(2019/11/05)
 

1:概要

2014年春、生活クラブ生協のブランディングプロジェクトチームにアートディレクターとして参加しました(着任は2013年秋から)。子育て中の若い世代をイメージして、長い歴史の中で親しまれてきたロゴやマーク、パッケージを刷新し、カタログ、注文システム、ウェブサイトなどのサービスを使いやすく改善していく仕事に、助走・準備期間も含めて約5年間取り組んできました。

プロジェクトの大きな核となったのは、2015年から使われている新ロゴタイプのデザイン。同じ時期に定められた書体やブランドカラーのルールに沿って、新ロゴタイプのテイストに準じた制作物が世の中に広がっていきました。注文カタログは親しみやすくフレッシュな印象になり、消費材(商品)のパッケージはそれまでのリングを強調した力強い外観から、シンプルで優美なイメージへと変貌しました。
 

 
古いものを捨てて無闇に新しくするのではなく、生活クラブが過去に積み重ねてきたものを否定せず、ベテランの組合員にも、これから新しく入ってくる人たちにも、新しいデザインの心地よさや楽しさ、使いやすさを同じように感じてもらえたら、というのが一連の仕事を通して心がけてきたことです。
 

2:「ブランディング」について

プロジェクトに参加した当時は、まだ多くの組合員と同じように勉強中・模索中の段階でした。

ブランディングの真の意味と目的を自分なりに理解できたのは、2015年に開かれた生活クラブの職員向け勉強会で、デザイン~ブランディング講座の講師を依頼された時でした。短い準備期間の中で資料をかき集め、マーケティング用語にとどまらない「デザインサイドから考えるブランディング」について、プロではない普通の人にもわかる平易な言葉と事例で伝えることができたと自負しています。
 

 
企業や組織の見た目とか、外からの評価を変えていきたいと考える時、中にいる一人ひとりが勝手気ままに事を起こす前に、ブランディングの考え方を全員で共有しておくことが大切です(ブランディングを知るまでの自分は、勝手気ままに動く直感タイプでした)。

単にデザインを変えるだけではなく、自分たちについてよく知り、そこにある美点を言葉やビジュアルでどう世の中に伝えていくか、その場にいる全員で考え抜く。それがブランディングの出発点です。
 

3:プロジェクトを通して得たもの/苦労したこと

プロジェクト発足当初の2014年に、35万人といわれた生活クラブの組合員数は、4年後の2018年には40万人に達しました。多くのスタッフと協力して成し遂げたその「実績」「成果」が、5年間で得ることのできた大きな収穫です。自分ひとりでは決して見ることのできない風景を沢山見ることができました。この仕事で学んだ多くのことを、今度はほかの誰かに役立つよう、次の仕事を通して伝えていきたいと思っています。

一方で、全国規模の大きな組織において──上意下達な構造を持った株式会社とは違い、各支部がそれぞれのポリシーを持って動く生協のような運動体の中で、自身のデザインを最後まで貫くことの難しさを実感しました。もう少し粘って新しい試みを見せたかった気持ちもありつつ、5年間という長いようで短い間、未知の環境で奮闘しながら、現場の人々にデザインという新しい可能性のドアを示すことができただけでも、十分役目は果たしたといえるのかもしれません。
 

4:農業とデザイン~自由で心地よい環境から生まれるもの

生活クラブの活動は、安全でおいしい食物を組合員同士が協力して安く手に入れる「生活協同組合」のしくみがもとになっています。中でも米や牛乳、卵など、人が生きていくために必要な食物を作る営みである「農業」は、とても大切にされてきました。

農作物を育てるためには、十分な日照と水と栄養と時間、そして様々な害から守ることも含め、植物や牛や鶏が安心して育ち、果実や乳や卵を生むための、自由で心地よい環境が必要です。いかに効率や生産性重視のためといえ、これらを疎かにすることが常態化するなら、農業というサイクルはやがて失われていってしまうでしょう。

実はこれらはそのまま、デザインにもいえることなのです。効率化や利益向上の片腕のように思われがちですが、自由で心地よい環境が奪われてしまえば、デザインも同じように死に絶えます。それまでにない新しい形をクリエイトするデザインの発想は、アートとも密接に結びついています。アートから自由を剥奪し、意味や理由や効率を求めるのはナンセンスです。

農作物が人の手によって丹精込めて作られるように、デザインも人との触れ合いを形にしていく仕事です。底なしの自由だけが、どこかの真似事や過去の焼き直しではない、美しい(何が飛び出すかわからない)卵を生み出すことができるのです。……そんなことも考えさせてくれた貴重な5年間でした。触れ合うことのできた方々に改めて深く感謝します。
 

2019年初夏 下山ワタル

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