華氏911/ボーリング・フォー・コロンバイン

華氏911/ボーリング・フォー・コロンバイン

マイケル・ムーア監督の2004年公開作品。やっと見ることができた。あまりポジティブでない評価も聞いていたので、ちょっと気が引けていたが、実際観てみたらとても良い作品だった。『ボーリング・フォー・コロンバイン』よりも個人的には印象が良かった。

『ボーリング・フォー・コロンバイン』から一貫して感じられることだが、マイケル・ムーアは言葉本来の意味で“愛国者”だと思う。彼は自分の住むアメリカを本当に愛しているからこそ、ブッシュやその周辺にいる自分の手を汚さぬ人々の欺瞞を許すことができない。マイケル・ムーアが常に他人事ではなく、つまり(日本人がしばしばそうであるように……)対岸の出来事として安全な場所から「ブッシュは悪だ」「戦争は悪だ」と語り、そしてすぐに忘れてしまうのではなく、自分自身を含んだ自分たちの出来事として忘れずに語ろうとしていることはとても重要だと思う。

前作でムーアが取り上げたのはアメリカ内部の病だったが、今回もその姿勢は基本的に変わっていない。アメリカ本土と膨張したアメリカの犠牲になったイラク、その二つのアメリカの闇を自らの身をもって体験した若い兵士たちやその家族に光を当てていく後半の展開は見事だった。

参考までに、過去に書いた『ボーリング・フォー・コロンバイン』の評を以下に。

 
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ボーリング・フォー・コロンバイン

マイケル・ムーア監督・出演のドキュメンタリー映画。2003年日本公開。アメリカの郊外にある、コロラド州のコロンバイン高校で起こった銃乱射事件を題材に、アメリカの銃問題とその真相に独自のアプローチで迫る。日本でも公開当初、アメリカのテロ報復やイラク攻撃にともなう反戦・反米ムードが高まる中、マスコミに取り上げられたことで大きな話題となった。

映画が大ヒットして、周囲でもこの映画を薦める声があちこちで聞かれたけれど、なぜか思うところがあってすぐには観に行かなかった。相変わらずアメリカと中東をめぐる争いの火は完全に消えていないけど、世論としてはあの頃よりも静かになって、少し冷静な目でこの作品と向かい合うことができた。結論からいえば、「ボーリング・フォー・コロンバイン」は、とてもよく練られ取材され、見事に編集された良質のドキュメンタリーだと思う。

この作品を見る限り、ムーアは自分が生まれた国を愛していて、彼なりのやり方でその現状を憂いているように感じられた。対象とあまり関わりを持たない取材者によるドキュメンタリーが、時として「巨悪を斬る」的なシリアスかつ大上段的な視点になりがちなのとは違って、彼の視点は「自分も生まれ育ったアメリカの郊外」「自分も持ってたNRA(ライフル協会)会員証と銃」みたいに、常に“自分自身”と結びついている。

そんなムーアの人柄……熱血やユーモアの精神が素直に表われているおかげで、このドキュメンタリーはとても人間味あふれるものになっていると思う。映画は、最後までわかりやすくユーモアを絶やさず、ムーアの愛や情熱をエネルギーに、ラストの結論、というか、ムーアがこの作品でもっともやりたかったこと・見せ場に向けて一気に突っ走る。

よく言われるようにムーアの取材は「アポなし・電波少年的」で、問題があったり、捉え方が一方的と感じる部分もなくはなかったけど、まさにムーアだからぎりぎり許せた。逆にほかの人だったら不快に感じたかもしれない。あまりに反米・反ブッシュ的なムードの中で語られることが多かったけど、この映画そのものはきわめてドメスティックで、アメリカ国内の問題(とくに「郊外」の実態)にきちんと光を当てようとしている。

アメリカ人のムーアが自分の国を憂い「アメリカは変だ」と告発するのと、国外からこの映画に便乗して(鵜呑みにして)反米を訴えるのとはまた別の話だろう。でも、次作はずばり「9.11」をテーマに、ビンラディン家とブッシュ家の密かな関係をあばくものになるそうで、ムーアの次の一手には素直に期待を寄せてしまう。
 

写真=華氏 911 コレクターズ・エディション [DVD]

2004年最も印象に残った××××

2004年最も印象に残った××××

:::本:::

BROOCH(ブローチ)
絵=渡邊良重/文=内田也哉子(リトルモア

カレンダーで有名なD-BROSの渡邊良重の絵に、内田也哉子が言葉をつけた絵本。トレペのような透ける紙(極薄の片晒クラフト紙)に描かれた絵が、次のページの絵と重なりながら物語を紡いでいくさまが素晴らしい。136ページの旅、という感じ。渡邊さんはデザイナーで絵描きだけど、これはデザイナーと絵描きの両方の視線があって初めて成立する希有な本だと思う。同一コンセプトでつくられた週めくりカレンダー「12 STORIES」(D-BROS)は、当事務所の2005年カレンダーに決定。

他にも…
沢木耕太郎ノンフィクション1〜9
 沢木耕太郎(文藝春秋)
狭くて小さいたのしい家 永江朗/アトリエ・ワン(原書房)
山名文夫のグラフィックデザイン(ピエブックス)
 
 

kokoku-hihyo
 
:::雑誌:::

広告批評(マドラ出版)

4月からグルーヴィジョンズがアートディレクションを手がけるようになってから、欠かさず買うようにしている。デザインもさることながら編集部の視点が常にヴィヴィッド。毎号出ているミュージックビデオやCMのレビュー、年末恒例の特集「世界のコマーシャル2004」+付録CD-ROMは、ぼくの心を映像の世界へと駆り立ててくれた。2004年は雑誌の当たり年!

他にも…
NEUTRAL
(白夜書房)
Luca(エスクワイアマガジンジャパン)
FOIL VOL.7 特集:アメリカ デザイン=中島英樹(リトルモア)
Invitation(ぴあ)
 
 

10yamana
 
:::アート:::

もうひとりの山名文夫 1920s-70s
(銀座=ギンザ・グラフィック・ギャラリー

山名文夫(やまなあやお)は、資生堂の新聞広告や紀ノ国屋のショッピングバッグのデザインで知られるグラフィックデザイナー/イラストレーター。思えば今から約6年前、1998年暮れに目黒区美術館で開かれた回顧展で、氏の作品を初めて見て衝撃を受け、「これからデザインとイラストの両方をやっていこう」と誓ったものだった。それが今に至るぼくの原点である。

その彼の生前約50年間の作品をまとめた久々の回顧展が、銀座の二つのギャラリーで同時開催された。特に(在籍していた)資生堂時代以外のグラフィックデザインとイラストを集めたgggの展示は、手描きとMacの要素が交わりつつある今のぼくには、とても価値ある内容だった。ぼくにとって新しい始まりと思えるこの年に、もう一度原点に立たせてもらえた気がした。2004年はKiiiiiiiの影響もあって、久々に新鮮な目でたくさんのアートに触れることができ、どれもすごく栄養になった。

他にも…
山名文夫の世界 曲線のモダンガール
(銀座=HOUSE OF SHISEIDO)
田名網敬一 「昇天する家具」展(大阪=graf media gm
Have We Met?—見知らぬ君へ(赤坂=国際交流基金フォーラム)
立花文穂展 SMTWTFS(田園調布=東屋)
 
 

vertigo honto
 
:::音楽:::

日常的にCD単位で音楽(新譜)に接する機会が減ったこともあって、去年は正直、個人的に心に引っかかるアルバムがほとんどなかった(仕事で関わった『日々のあわ』『raise hands high』はよく聴いたけど)。もはやCDとかアルバムの時代ではない、というよく聞かれる風説が、iTMSの画面なんかを見ているとなんだかリアルに感じられてくる。

U2の「Vertigo」は、もうそこまで来ている“一曲百円”時代にぴたりと照準を合わせた、21世紀のシングルという感じでカッコよかった。iPodとのタイアップも、CD/CD+DVD/CD+DVD+BOOK/iTMSという4種類のアルバムの販売形態を用意しているのも、したたかだし。iTMSだけで売っているという“Vertigo by U2”のCFのフルヴァージョンが見たい。

矢野顕子の『ホントのきもち』は、いわばU2の対極。エピック時代に無理してつけていたであろうタイアップやら、きらびやかな装飾的要素を一切やめてしまった。ごちそうに対して粗食、みたいなざらっとした感触の歌が、かえって矢野さんの“ホントのきもち”をより正直に伝えている気がした。創作でも日頃のちょっとしたことでも、嘘に嘘を重ねることは必ず自分に返ってくる。このアルバムはぼくにとって去年一年間の象徴的なテーマとなった(という割に実はほとんど聴いてない。あくまでも象徴なので……)。矢野さんが当社に在籍したわずかな期間に、bluemarkの菊地さんをアルバムのデザイナーとしておすすめできたのはよかったとつくづく思う。
 
 

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:::キーワード:::

“映像”

気が付いたら映像ばかり見ていた一年だった。映画ではなく“映像”。ミュージックヴィデオ、CF、Flashムービー、ヴィデオアートなどの短めの作品。これまでは「静止したもの」がずっとぼくのデザイン的興味の対象だったが、去年からは、動くもの、複数のコマで見せるもの、タイムラインのある表現への関心が一気に高まった。

Kiiiiiiiの影響や、個人的にもイラストを使ったスライド作品を秋に発表したり、下地になる出来事はいろいろあったけど、きちんと意識して注目するようになったのは、9月のSOI-MUSIC FESで辻川幸一郎のMV(スーパーカー、スパノヴァ、コーネリアス…)を見たのがきっかけ。いやー、はっきり言って天才。2004年は辻川幸一郎の才能を讃える年といっても過言ではない。気持ち悪いことはなんて気持ちいいんだろう(たとえばこの作品→GettyImages)。SMAPのNTT東日本、慎吾くんが出ている明治ミルクチョコレートのCMも彼の作品。

他にもワープ・レコードのMV集『ワープ・ヴィジョン』で、クリス・カニンガムの映像の不気味さにひかれたり、Kiiiiiiiも参加した伊藤桂司さん+京都造形芸術大の学生が制作したアニメーションに感動したり。「広告批評」年末恒例の特集“世界のコマーシャル2004”も付録CD-ROMにCF映像がいっぱいで楽しめた。音楽だけよりも、音楽と映像が結びついている方が面白いし(ある意味ライブもそういうもの)、静止したアートワークもそれをスライドみたいにタイムラインに乗せたり音楽と組み合わせたりするだけでかなり面白くなる、というのが2004年の大きな発見だった。年末に見た国際交流基金フォーラムの“Have We Met?”展でも半分以上の作品がヴィデオアートで、この方向は現在の主流なんだなと感じる。

 

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