ぼくの好きな先生

デザイナーなら和田誠。あらゆる意味でお手本。
漫画家だったら松本零士。男はいかに生きるべきか教えてくれた。
音楽家では坂本龍一。勧めてくれた本や音楽を片っ端から背伸びして追いかけた。
もう一人、小西康陽。「編集」について、音楽を通して教わった。
吉本隆明、柄谷行人、竹田青嗣。それまで知らなかった書物の世界への扉を開き、
ぼくの身体に“テクスト”という名の骨格を造ってくれた思想家/批評家たち。
ほかにも、ノーム・チョムスキー、坂口安吾、北野武、大林宣彦、手塚治虫……。
そして岸田秀と、河合隼雄。
かつてこころが少し疲れそうになったとき、二人の書物を足がかりに臨床心理学や
精神医学の本をいろいろと読み漁ったことがあった。「こころ」は受け皿のように、
それこそ「器」のように、ぼくの奥底のいちばん大事な場所にいつもある。
デザインはいわば屋根で、いつ強風で吹き飛んでしまうかわからないが、
こころは土台で、死ぬまで一緒に付き合っていかなければならない大切な友だ。
そのことを教えてもらったからこそ、いまの自分があるような気がする。

河合先生は、常に高く舞い上がりぴんと緊張しがちな日本人のこころの凧糸を、
あそび(余裕)が生まれるよう、反対方向にゆる〜くひっぱってくれていた。
その糸が急にはじけて、いまちょっと痛い。ご冥福を祈ります。
 

>>河合隼雄 その人と仕事|河合隼雄財団
 
写真=考える人 2008年 02月号 [雑誌]