文字モジトークショー01(レポ)

8月2日(土)に五反田の5TANDA SONICで開かれた「文字モジトークショー01:片岡朗×岡澤慶秀」へ。「游明朝体」など数々のフォントを生み出した字游工房の岡澤さんと「丸明オールド」等で知られる片岡朗さん(カタオカフォントワークス)の対談および書体制作実演、とのことで期待して観た。はじめはごく限られた人向けの勉強会として企画していたが、せっかくなので一般公開しようということになった、と司会の方の弁。

冒頭でそれぞれが書体作家になるきっかけについてのトークが30分ほど行われたあと、ノートパソコンを持ち込んでの書体制作実演へ。二人合わせて1時間以上と、イベントの半分以上を占めたスリリングな「対決」に、岡澤氏片岡氏両者の書体に対する思いやアプローチの違い・個性が見て取れて興味深かった。
 
 

まず、岡澤氏はWindowsのノートパソコンを使用。あらかじめ方眼紙で作図したいくつかの原字をスキャンして取り込んでおき、Illustratorによく似たインターフェイスのBezier Editor(ベジェ・エディター)というソフトに背景画像として配置、その上から直接ベジェ曲線を打ち込んでトレースしていく。ライブトレースやストリームラインみたいな補助ソフトは使わず、すべて手作業で。このベジェ曲線使いが神業! 少々ラフでも、ピークとなるポイントにぽんぽんと素早く点を置いていき、あとで文字のラインに合わせてアンカーをふくらませ実際の形に近づけていく。作業のスピードも驚くほど速い。いくつかの基本形が完成したら、あとはその素材を使ってコピー/ペーストしていくのだという。もちろん単なるコピペではなく、文字によってはトメやハライの長さ大きさが微妙に異なる場合もあって(たとえば「あめかんむり」の4つの横棒は左上だけが少し小さい、とか)、その都度見当をつけて修正していく。その判断の基準となるのは、作業中片岡さんもびっくりされていたように、書体に対する正確な知識と美的感覚の集積、であろう(岡澤氏は終始ひょうひょうと、それが当たり前であるかのように作業していたけど)。岡澤さんにしか見えない(字游工房のスタッフが共有しているに違いない)書体に対する絶対基準があって、それはたとえ同じパソコンやソフトを使っていても容易に到達できないものだと感じられた。
 

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休憩をはさんで、片岡氏の実演。MacのIllustrator CS3上に事前に用意された素材をもとに、順を追って説明していく。岡澤さんが「塗り」を使うのに対し、片岡さんは「線」を使って作業を行うのだそう。活字を、最も古い康煕字典から築地書体など経て現代の写植まで順番に並べた資料を最初に見せ、この中から片岡さん自身が気に入った、康煕字典からの最古の活字と最も新しい写植文字の二つ(文字は「愛」)をスキャンしたものを画面上で重ねて、ちょうど重なり合った部分にラインを引くと、なんともあたたかみのある片岡書体のもとが生まれる。これをもとにして制作した明朝体と、もうひとつ、古い書体に若い女性が書いた「愛」の手書き文字を重ねて、同じプロセスで完成させた明朝体の文字を、小塚明朝やヒラギノ明朝などのフォントと比べてみると、やはりなんともいえない味わいが感じられる。片岡さんの口から「味」とか「やさしさ」といった感覚的な言葉がしきりに出てくるのが印象に残った。書体のつくり方にしても、二つの文字を組み合わせて全く新しい書体を作り出す手法は、音楽でいえばDJのミックスやマッシュアップに近いし、同じようにパソコンをベースとしながらも、年齢的には若い岡澤さんがどちらかといえば書体制作の「モダン」の部分を継承し、逆に高齢の片岡さんが「ポストモダン」な側面を担っているようにみえる、という不思議な対比も面白かった。

最後に書体作家を目指す人へのアドバイスや、今後のお二人の活動予定のアナウンスがあった。片岡さんが次に発表する予定の書体の話は、ぼくにとって非常にうれしいものだった。ここでは実際に会場に足を運んだ人だけのお楽しみということにして、しばらく伏せておこう。(答え:丸丸ゴシック販売)