筒美京平SONGBOOK[増補新訂版]

プレイリスト企画第2弾として(第1弾はK-POP PLAYLIST 2019 SUMMER)、作曲家・編曲家の筒美京平が、1965年の作家デビュー以来、2019年現在までに作曲(編曲)した曲を、Spotifyに登録された楽曲から選んでプレイリストにまとめました。

(本稿の人名はすべて敬称略)

1966年8月に藤浩一のシングルとして発売され、翌年までに7組のシンガーにより競作された「黄色いレモン」が筒美京平の作曲家としてのデビュー作でした。以来、作曲家・編曲家として数え切れないほどのヒット曲を量産し、現在もなお(2019年時点で79歳)コンスタントに作曲活動を続けています。

このプレイリストを作った理由

どうして音楽研究家でもなんでもない、ただのグラフィックデザイナーにすぎない自分が、このようなプレイリストを作ろうと考えたか。

小沢健二の17年ぶりのオリジナルアルバム『So Kakkoii 宇宙』のリードトラックとして、10月11日に突然リリースされた「彗星」を聴いて、筒美京平と共同作編曲した1995年のシングル「強い気持ち・強い愛」に通じる世界(歌謡曲+フィリーソウル)を感じたのがきっかけでした。そんな中、台風19号の襲来のため一歩も外に出られなかった夜に、Spotifyで再生時間8時間以上におよぶ筒美京平関連曲のプレイリストを聴いてみたら、思いのほか面白く、沢山の発見がありました。

その後、筒美京平全作品を網羅した記録集『筒美京平の世界[増補新訂版]』(P-Vine Books・2011年、トップの画像も同書からの引用 絵:和田誠)を読むと、上記のプレイリストの収録曲以外にも興味をそそる楽曲が沢山あることがわかりました。それらを補うかたちで、筒美京平の全仕事を「増補新訂版」的にまとめてみようと思って作ったのが、今回の200曲以上、再生時間12時間を超えるプレイリストです。

とはいえ、これはSpotifyに限らずストリーミングサービスの限界ですが、代表曲の多くが未登録のため、惜しくも今回のセレクトから漏れた曲が沢山ありました。作曲家デビュー曲の「黄色いレモン」と60年代の大半の作品。ジャニーズ事務所出身・所属の男性歌手(郷ひろみ、近藤真彦、少年隊、SMAPなど)。小泉今日子中山美穂をはじめとする黄金期の女性アイドル。90年代では、裕木奈江、鈴木蘭々、内田有紀ほかの女優兼シンガーへの提供曲。2000年以降では、安倍麻美、Buono!、ゲーム内のBGMを全編手がけた『いただきストリート2』サントラ、etc……。それでも時代の要請に応じたバリエーションの豊かさと、フィリーソウルや洋楽ポップスへの愛情は十分伝わってきます。

資料は『筒美京平の世界[増補新訂版]』をベースに、刊行年以降(2012~)の曲は筒美京平のウィキペディアを参考にしました。

この経験がデザイナーとしての自分の仕事に還元されるか?といえば、疑いなく「No!」だと思います。ただ音楽が好きという気持ちに動かされてやっています。
 

選曲にあたってのルール

★2019年現在からデビュー年に向かって時代を遡る順に並べています(新→旧、一部例外あり)。
★シングル曲メイン。アルバム曲からも選ぼうと思いつつ、あまりに膨大なので断念しました。
★ひとつのテイストや自分の好みに寄せすぎず、代表曲、ヒット曲も含め、ポップス、ロック、演歌など多様なジャンルから選ぶと共に、時代の空気が伝わるように心がけました。
★Spotifyに収録されている範囲で、筒美京平から楽曲提供を受けた各アーティストの曲を最低1曲は必ず入れています。
★原則として、後年に発表されたカヴァー曲は省きました(森高千里「17才」ほか一部例外あり)。オリジナル曲が未収録の場合に限り、別のアーティストによるカヴァー作品を発売日の位置に入れている例がいくつかあります。
*安室奈美恵「人魚」(NOKKO)、大槻ケンヂ「お世話になりました」(井上順)、etc…
★加藤ミリヤ「新約ディアロンリーガール feat. ECD」は2018年の曲ですが、特別な成立背景もあって(マーヴィン・ゲイ「セクシャル・ヒーリング」→佐東由梨→ECD→加藤ミリヤ→新約 feat. ECD)、時代に応じてかたちを変えていく筒美京平作品を象徴する曲だと考えて、一番先頭に置きました。
 
 
短期間に膨大な筒美京平の作品を浴びるように体験して気付いた発見や感想はここではあえて省略し、これから聴く人にゆだねたいと思います。代わりに『筒美京平の世界[増補新訂版]』でも執筆者が挙げていた「筒美京平の10曲」を自分でも選んでみました。

アレンジが光る筒美京平の10曲

筒美京平が書いた曲を編曲家がアレンジして、楽曲は最終的な完成に至ります。自ら編曲家としても活動していた70年代以前は勿論、それ以降の作品でも編曲家に曲を渡す際に、ある程度のイメージは伝えていたのではないかと想像します。編曲家のアイデアが加わって更に輝きを増した、アレンジが光る筒美京平の10曲を選びました。
 

★Sweet Pain/MISIA(2000 編曲:松井寛)
──筒美京平が70年代にやりたかったことの完成形のようにも聴こえる。
★強い気持ち・強い愛/小沢健二(1995 編曲:筒美京平・小沢健二)
──「スタンダップ~」が京平サウンドの肝だと思ったので、『刹那』Ver.から。
★と・き・め・き/高橋由美子(1991 編曲:ULTIMAX)
──麻丘めぐみのカヴァー。リズムが、ジャングル直前のブレイクビーツ×エレクトロ。
★スクール・ガール/C-C-B(1985 編曲:船山基紀・C-C-B)
──女性アイドルがそのまま歌っても違和感なし。チョッパーベースもスパイス。
★ト・レ・モ・ロ/柏原芳恵(1984 編曲:船山基紀)
──たしか船山基紀が個人でフェアライトCMIを買って打ち込みした曲。
★ふりむけば愛/島田歌穂(1982 編曲:松井忠重)
──伊東ゆかり「愛の光」の改題だそう。歌巧~。
★青い地平線/ブレッド&バター(1980 編曲:細野晴臣・田辺信一)
──YMO直前の細野晴臣のベースが全編通して疾走してて爽快。
★ぬくもり/細川たかし(1978 編曲:高田弘)
──演歌歌手からの依頼はポップス調の曲が多い傾向。これも歌巧~。
★夏の感情/南沙織(1974 編曲:筒美京平)
──ファンクとロックの混ざり具合が、こぶしファクトリーっぽい。
★恋の追跡(ラヴ・チェイス)/山本リンダ(1972 編曲:馬飼野康二)
──欧陽菲菲のカヴァー。山本リンダの凄さがわかる。今もクラブで使えそう。

おまけ

◯野口五郎が、歌手としても楽曲としても素晴らしいということが今回の一番の発見。歌が巧すぎて、何曲も何曲も選んでしまいそうで困った。時代に応じて音楽性を少しずつアップデートしていることもよくわかる。「グッド・ラック」「女になって出直せよ」とか、山下達郎と比肩する才能が感じられるし、のちのシティポップにつながる萌芽も見られる。女性シンガーでの発見は、石井明美。

◯中山美穂の楽曲がなくて、代わりに選んだ「WAKU WAKUさせて」「ツイてるねノッてるね」のトランス/ユーロ・カヴァーがどちらも良かった。森高千里「17才」もそうだけど、カヴァー&リアレンジされても曲の良さが全く揺るがない。どころか、時代に応じて輝きを増していくのが不思議。