おむすび舎の絵本PVとコロナ時代の絵本プロモーション

ブックデザインを担当した、食や健康がテーマの台湾の絵本『やさいだいすきだワニ』おむすび舎)が7月に発売されました。今回、ブックデザインの流れで、絵本のプロモーションビデオとして1分20秒ほどの短いティーザー動画を作りました。版元さんもとても好評!と喜んでくれてます。
 
このPVは、なんと人生で初めて作った動画です。にわか動画職人と言っていいレベルの新米ですが、絵本に関わらせていただく機会の多いデザイナーとして、既存の絵本にまつわるプロモーションビデオを見て感じたことや、音楽関係の仕事に関わった経験、映画の予告編への愛など、様々な蓄積を反映させながら作ってみました。そのへんの話をちょっとしてみたいと思います。

 

動画編集ソフトはKeynote

こう話すと同業の方から「えっ!」と驚かれます。Keynoteは、マイクロソフトのPowerPoint(パワポ)と同様の機能を持つAppleのプレゼンテーションツールで、動画制作が主目的のソフトではありません。
 
しかしKeynoteにはスピーチやプレゼン用途に留まらない、動画制作にも役立つ様々なアクションがあらかじめ用意されており、それらを有効に使って動画を作ることも可能なのです(書き出しも可)。インターフェイスは直感的かつシンプルで、ぼくが普段使っているAdobe Illustratorよりも簡単で扱いやすい。もうデザインも全部Keynoteでやりたいくらいです。
 
このことに気づいたのは、以前仕事をしていた生協でデザイン講座を依頼され、初めてKeynoteに触れたのがきっかけでした。参考書を見なくてもソフトウェアと向き合うだけで、デザイン的にも洗練されたスライドが作れてしまうことへの驚き。ちなみにこれまで一般的な動画編集ソフト(Premiereなど)もパワポも触ったことがありませんでした。
 

近年増えてきた絵本のPVについて思うこと

絵本の宣伝を目的とした公式プロモーションビデオが、ここ1〜2年で増えてきました。朗読主体の簡素な動画から、アニメや映像を取り入れた本格的なものまで様々です。絵本の内容を見せて購買に結びつけたい意図が伝わる反面、中には見ただけで満足して買う気が失せてしまうPVもあるね、というおむすび舎の版元との対話が、今回の動画のためのヒントになりました。

○充実させすぎない。全てを公開しない。続きは絵本で。
○できるだけ短く。YoutubeでもSNSでも気軽に見られる長さ。
○絵本としてのフォーマットを尊重し、余計な要素を加えない。
○絵本のデザインに使われた素材だけで簡単に作れる。

上記のことに留意しました。

ド派手なアニメーションや映像を駆使した本格的なビデオは作れないし、カメラ撮影のように素材をゼロから自作するのも無理。できないことばかりですが、逆に絵本という静かな読み物のプロモーションという観点で考えた時、絵本の素材から発想できるこのくらいのシンプルさでちょうどいいんじゃないかな、と思ったのです。

つまりは、ぼくの普段のデザインと同じ考え方です(Good design is as little design as possible)。
 

つんく♂絵本の朗読プロモーションが成功した理由

コロナ禍で予定された出版が次々と延期となった中、つんく♂初の絵本『ねぇ、ママ?僕のお願い!』が、刊行に先駆けて全編朗読動画を無料公開。続いて公開された映像オンリーの動画に、モーニング娘。の現役・OBほかが次々と朗読音声をつけて参加し、大きな話題となりました。くしくも絵本業界では、YouTubeなどの違法な絵本読み聞かせ動画への声明が出されたばかりのタイミングでした。
 
音楽の世界ではフルサイズのMVが公開されるのが一般的です。これは音楽の市場規模がとても大きく、CDなどのパッケージ、サブスクリプション、ライブ、YouTube再生など様々な形での回収が可能だからです。これに対して絵本はマーケットが小さいため、フリーミアムが成立しにくい。YouTubeというメディアの性質上、フル読み聞かせ動画で人は満足し「無料でいいや」で終わってしまいがちなのです。
 
つんく♂絵本の朗読プロモーションが成功したのは、つんく♂自身のネームバリューが通常の絵本作家のそれを飛び越えて絶大だったからです。もし仮にこの絵本が売れなくても、その評判(評価経済的な)はつんく♂個人の活動に反映されていきます。あと、版元の双葉社が絵本専門出版社ではなかったのもフットワークの面で大きかったと思います。
 
絵本の内容をフル公開してもOKなのは、作家本人やタレントなど特別な人による朗読の場合。特別な人が朗読する絵本なら買ってみようという気持ちになれそうです。
 

コロナ時代の絵本プロモーションについて

コロナウイルスの影響で足を使った営業やイベントへの集客が難しくなる一方で、オンライン〜通販により出版業界全体の売上が激増している、なんて話も耳にします。今回の『やさいだいすきだワニ』では、Zoomを使った業界初の試みといわれるオンラインリモートサイン会も開かれました。
 
リアル→オンラインへと向かう流れの中で、従来のチラシのような手に取ってもらう宣伝物の代わりに、YouTubeやSNSに乗せて届ける軽めのプロモーションビデオってけっこうありなんじゃないかと思ってます。デザインが終わった後、同じ素材を生かしてすぐに作れるのも簡単かつスピーディーですし。


『やさいだいすきだワニ』PVのための絵コンテ
 

現在、おむすび舎の絵本を題材にしたプロモーションビデオの第2弾を作ってます。絵本ごとに必要な要素だけをピックアップして、流れを考えながら絵コンテを作り、1分30秒前後の映像にまとめていく作業はとても面白いです。
 
ここ最近は絵本のデザインだけでなく、POPや試供品などのプロモーションプランまで編集者や著者と一緒に考えるパターンが増えています。本を入稿してお役御免よりも、売れるためのお手伝いができたほうがうれしいし、そういう予算や時間があらかじめ確保されていたりしたら、仕事としても余計にやりがいが出ます。そんな案件があったらぜひ声をかけていただきたいです。
 
>>絵本『やさいだいすきだワニ』|パラグラフ