閉ざされた世界

閉ざされた世界

今年8月に引っ越しをすることに決めた理由はいくつかあった。南青山の仕事場を貸主の都合により秋までに退去しなければならなくなったこと。将来始めたいプロジェクトのために倉庫がほしかったこと。娘の成長に伴って居住スペースが手狭になってきたこと。いくら挨拶をしても無視される同じ階の夫婦との近所付き合いにうんざりしたこと──。中でも決め手となったのは、春先から旧居のマンションで大がかりな内外装工事が始まったことだった。もちろん賃貸だから、大家は入居者に断りなく自分のマンションを改装しても別に構わない。これまでも何度か屋上に携帯やWiMAXの中継アンテナを立てるなど、常にどこかしらを改装しなければ気が済まないタイプの大家だった。

でも、今回はこれまでとはいささか趣が違っていた。工事は、内外の壁全面と廊下・階段からバルコニーなどの居住空間にも及ぶ大規模なものだった。例年にない厳しい猛暑の中で約半年近く、日曜を除くほぼ毎日ドリルや金槌の音が響き、ほこりや塗装のシンナーの匂いで、自宅でのちょっとした作業はもとより落ち着いた暮らしすら困難な状態にさらされた。分譲マンションなら入居者に対して事前に説明会を開くレベルだろう。もともと築年数も割と浅めの耐震を想定して作られたきれいなマンションで、建物全てをひっくるめて改装するような工事を長期に渡って行う必要性も感じられなかった。

マンションには周りを完全に取り囲むように足場が組まれ、外側は工事中を示す黒い暗幕ですっぽりと覆われた。比喩的な話だが、暗い世界の中に閉ざされ、外界との連絡を絶たれてしまったようにも感じられた。実際、不思議なことに工事と前後して、これまで続いていた仕事の話が急に途絶えたり、連絡が来なくなったり、連絡待ちのまま滞ってしまうことが多くなった。時を同じくして南青山の仕事場がなくなる話も聞こえてきて、「ここから出たい」と痛切に願うようになった。誰かが「Are You Happy?」と問いかける声が聞こえた気もした。

いまこれを書いている新しい家は、その当時、気持ちが滅入らないようにと近所を毎朝散歩していた折に、緑の多い雰囲気が気に入って何度も足を運んだ場所のすぐ近くだった。同じ町とは思えないとても静かな環境で、見つけた時は運命の導きを感じた。収入的な心配もあって一旦は諦めたものの、なんとかやっていけそうな目処が付くまでの約1か月間、空き家のまま残されていたため契約することができた。ぼくたちが入居するのをずっと待っていてくれたようだった。

嵐のような引っ越しから2か月が過ぎた10月、屋根の修繕のついでに外壁の全面改装を行うことになり、工事が嫌で引っ越してきたこの新しい家でまた工事が始まった。外壁に沿って足場が組まれ、先週からは塗装のため雨戸ごと外から養生シートで覆われ、窓を開けることもできない。幸いにも今度は1か月弱の短期間で、来週には工事が完了する。

新しい家の外側を覆う白い幕は、前のマンションの黒い幕とは違ってやわらかな繭のように感じられる。比喩的な話を続けるなら、今年は繭の中で過ごすべき一年だったのだ。いまはこの繭のように閉ざされた世界の中で、自分自身のメンテナンスをしたり、静かな気持ちでこれから本当にやっていきたいことなどに目を向けていこうと思う。今年は思い通りにいかないことも沢山あったけど、やがて霧が晴れるみたいに繭の殻が解かれ、最初は幼虫のように不自由を体感しながらも、いつかまた自由に空を飛べるようになるだろう。
 

引っ越しました。 ’18

引っ越しました。 ’18

8月初め、約10年半振りに自宅を転居しました。約4年間借りていた仕事場も止むなき事情で離れることになり、今後はこちらの自宅兼オフィスを拠点に業務を行っていきます。前の住居の近隣で、最寄り駅もこれまでと変わりません、引き続き今後とも変わらぬお引き立てをよろしくお願いいたします。

引っ越したいと強く願うに至った旧居での住環境の大きな変化と、仕事場の件、新しいデザインの仕事の話……それらと新しい物件との出会いが同時にやってきて、そこから転居の実行に至るまではかなりの短期間でした。実際、真夏の、酷暑の盛りに引っ越しはするもんじゃないな、というのは今回の大きな教訓となりました(クーラーが外された数日間、一体どうなることかと)。でも、引越しのオフシーズンだからこそこういう面白い住処に巡り会えたのかな、という気もしてます。朝から晩まで、虫や鳥の声、近所の団地の草木がそよぐ音、竹林が揺れる音……心地良い音が常に耳に入ってきます。この上ない環境に恵まれたこの場所で、新しい試みにもチャレンジしていきたいと思ってます。

引越し蕎麦の絵は10年半前の転居の際にも描きましたが、今回は夏なので冷麦にしました。実は10年前の蕎麦の絵の周りに描き足して拡張したリメイクです。

新年のご挨拶 ’18

新年のご挨拶 ’18

あけましておめでとうございます

昨年は様々な「ピリオド」「別れ」に直面した一年でした。
でも、別れは出会いの始まり、とも言いますし、今年はなんとなく、
これから新しく出会う人々だけでなく、これまで出会ってきた方々とも、
再び新しい気持ちで出会えるのではないか、と予感しています。
終わるプロジェクトがあれば、新たに始まるプロジェクトもあります。
いつも新しい自分でいられるよう、引き続き努力し楽しみ続けていきます。

一昨年からの夢は現実にぶつかって形を変えながら、まだ継続しています。
新しい夢のひとつとしては、今年、画業を再開したいと考えてます。
過去の未発表作を世に出すことを第一目標に、その過程で新しい作品にも
ぽつぽつとまた取り組んでいけたらと思っています。

https://www.instagram.com/cinnamon_tokyo/

本年もどうぞよろしくお願いいたします。
 

 
>>新年のご挨拶 ’17
>>新年のご挨拶 ’16
>>新年のご挨拶 ’15
>>新年のご挨拶 ’14
>>新年のご挨拶 ’13
>>新年のご挨拶 ’12
>>新年のご挨拶 ’11
>>新年のご挨拶 ’10
>>新年のご挨拶 ’09
>>新年のご挨拶 ’08

 
::2017年の主な仕事::
(リンクのあるタイトルはWorksのポートフォリオ、またはNEWSが開きます)

『ちょっとだけ体操 〜Hoick CDブック〜』[児童書](ソングブックカフェ)
生活クラブのリニューアルプロジェクト[ロゴタイプ、アートディレクションほか](生活クラブ)
第九回harmonize吹奏楽チャリティーコンサート[フライヤー] (harmonize)
『いのちのたべもの』[絵本] 中川ひろたか/文、加藤休ミ/絵 (おむすび舎)
『ごはんのにおい』[絵本] 中川ひろたか/文、岡本よしろう/絵 (おむすび舎)
かんたん!たのしい理科実験・工作シリーズ[児童書](岩崎書店)
『わかったさんとおかしをつくろう!』シリーズ 寺村輝夫・永井郁子 [絵本](あかね書房)
緩やかなレーベル [ロゴデザイン](緩やかなレーベル)
 

::2017年のよりぬきブログ記事::

Hello! Project 研修生発表会2017 〜春の公開実力診断テスト〜 に行ってきた
おなみだ的◯◯点
instagramアカウントのお知らせ

2017年最も印象に残った××××

これから行くかもしれない展覧会:アーカイブ
 (2016年1月から「こんなの一体誰が読む?」と思える内容のメモ/近況を末尾に残しています)

これから行くかもしれない展覧会[2017・12~]

これから行くかもしれない展覧会[2017・12~]

崔在銀「Paper Poem」
2017年10月20日[金]~12月2日[土]
MISA SHIN GALLERY(東京・白金高輪)
オペラシティの韓国の抽象画展に参加している作家。古本を使った作品。

ディック・ブルーナ ポスター展 ブラック・ベアは本が大好き
2017年11月6日[月]―2018年1月5日[金]
ノエビア銀座ギャラリー(東京・銀座)
仕事につまづくとふと見たくなるのが、ブルーナとかサヴィニャックとか。

鉄道芸術祭vol.7 STATION TO STATION
2017年11月10日[金]―2018年1月21日[日]
アートエリア ビーワン(大阪・なにわ橋)
立花文穂、高山なおみ、長崎訓子によって行われる、体験する『球体』7号。

マリメッコ・スピリッツ ― パーヴォ・ハロネン/マイヤ・ロウエカリ/アイノ=マイヤ・メッツォラ
2017年11月15日[水]―2018年1月13日[土]
ギンザ・グラフィック・ギャラリー(東京・銀座)
マリメッコの今を支える三人のデザイナー。日本をテーマにした新作も。

日本・デンマーク国交樹立150周年記念 デンマーク・デザイン
2017年11月23日[木・祝]―12月27日[水]
東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館(東京・新宿)
ウェグナーはデンマークではヴィーイナと呼ぶのか。ヤコプスン、ヴェアナも。

世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦
2017年11月25日[土]~2018年1月8日[月・祝]
板橋区立美術館(東京・成増)
シルクスクリーンで職人が作る美しい絵本。副都心線で少し行きやすくなった。

タダジュン・さかたきよこ Thunder
2017年11月30日[木]―12月11日[月]
ウレシカ(東京・西荻窪)
同名の小冊子の発行を記念して、最近の仕事とともに。

石川直樹「Svalbard」
2017年12月1日[金]―2018年1月8日[月]
NADiff Gallery(東京・恵比寿)
同名の写真集より。北極圏の最北の街、スヴァルバール。旅の極北。最果てにて。

さわ展 「ささやかな日々に」
2017年12月2日[土]―12月9日[土]
カフェ シーモアグラス(東京・原宿)
ドローイングと雑貨。植物をモチーフにした絵や、ブローチが可愛い。⇒instagram

YU NAGABA EXHIBITION『 I DID 』
2017年12月2日[土]―12月12日[火]
Gallery X BY PARCO(東京・渋谷)
シンプルな法則に貫かれたやさしい線。スヌーピーの絵とか好き。作品集販売も。

THE ドザえもん展 TOKYO 2017
2017年12月2日[土]~12月23日[土・祝]
eitoeiko(東京・神楽坂)
カップ焼きそばUFOのUFOを作ったアーティストの新作。⇒美術手帖

おなみだぽいぽい 後藤美月 絵本原画展 〜そらとぶとり篇
2017年12月8日[金]~12月13日[水]
オーパ・ギャラリー(東京・表参道)
東京では青山ブックセンターに続く原画展。

石内都 肌理と写真
2017年12月9日[土]―2018年3月4日[日]
横浜美術館(横浜・みなとみらい)
初期の横浜のモノクロから近年の「ひろしま」などを包括する大規模展。

坂本龍一 with 高谷史郎|設置音楽2 IS YOUR TIME
2017年12月9日[土]―2018年3月11日[日]
NTTインターコミュニケーション・センター [ICC](東京・初台)
被災したピアノを世界各地の地震データによって演奏するインスタレーション。

平岡瞳版画展 冬の風景
2017年12月15日[金]~12月23日[土・祝]
オーパ・ギャラリー(東京・表参道)
去年の同時期の展示で、実家に似た冬景色の作品を買ったのを思い出す。

ミロコマチコ いきものたちの音がきこえる
2018年1月20日[土]―4月8日[日]
世田谷文学館(東京・芦花公園)
世田谷文学館での初の大規模個展。新作も。とても楽しみ。

瀧本幹也「CROSSOVER」
2018年2月23日[金]~3月14日[水]
ラフォーレミュージアム原宿(東京・原宿)
来年の話。ラフォーレほか様々な広告や映画スチールの分野で活躍。新作も。

[メモ]

夏頃の仕事のお知らせを2件更新しました。

中川ひろたか・文、岡本よしろう・絵。「ごはん」「お米」の大切さを伝える食育絵本第2弾。
>>絵本『ごはんのにおい』|パラグラフ

小学校中学年以上を対象にした理科実験・工作を紹介するシリーズ本。
>>かんたん!たのしい理科実験・工作シリーズ|パラグラフ

もうひとつ書籍の仕事がありましたが、少し後でご紹介します。

 
怒涛のような、という表現がぴったりの2017年でした。

何人かの大切な人々との別れと、精神的に重い仕事が重なった今年の冬から夏まで。自分自身さえどうなってしまうかわからないほどの、辛くて笑えない日々の連続でした。もうこの時期のことは本当に思い出したくもないほどです。しかし幸いにも秋からは一転して、台風が過ぎ去ったかのような穏やかな日々に包まれています。11月に入ってからの日常だけでも、もうその前のことは全部帳消しなくらいです。

すれ違う人々や仲間たちから聞く「最近、いろいろあってね」という言葉の中の、「いろいろ」という一語の持つ重みを身をもって悟った一年でもありました。みんな口には出さないだけで、いろいろあるんだなあ、という。その「いろいろ」をあえて口に出さなくてもいいんだ、という、仲間どうしだけが持つさりげなくやさしい気遣いにも救われました。

この場所で(一体どれくらいの人がここを継続して読んでくださってるのだろう? おそらく3人くらい? そのくらいの読者数をイメージして書いてます)何度か匂わせてきた夢の話ですが、上記のような状況もありつつ、また、自分の中にきっちりした動機と青写真を持たないと続けていけないだろうという厳しい認識にも至り、ほとんど白紙の状態からもう一度マイペースで考え直してみることにしました。来年からまた再始動です。

instagramで自分の過去のイラストをコンスタントに公開するようになってから、約1か月が過ぎました。海外のアカウントを中心にフォローして、現在のトレンドはカラフルで柔らかい線を用いたイラストレーションだとわかりました。日本のイラストは先行世代のコミックや童画の影響を強く受けているのに対し、海外のイラストは同世代の上記のようなトレンドの影響が大きい。海外の作品はみんな似たような印象でありつつ、その心地よさには抗いがたいものがあります。そんな中で自分の絵は、日本と海外のどちらにも似ていない、良くも悪くもズレたポジションにいると感じています。ぼくが活動していた時代にはSNSはなかったので、15年前からタイムスリップしてきた自分の作品がいまの世界でどう受け止められるか、について密かな興味があります(が、あくまでも主目的は現代のイラストレーションの探訪)。

アンジュルム中野サンプラザ公演の感想は、いずれまたの機会に。
 
>>これから行くかもしれない展覧会[2017・11~]